東国三社巡りの順番と回り方|鹿島・息栖・香取を一日で巡る
東国三社とは、茨城県の鹿島神宮・息栖神社と千葉県の香取神宮の三社の総称で、巡る順番は「鹿島神宮→息栖神社→香取神宮」が定番とされています。三社は車ならそれぞれ15〜30分ほどの距離にあり、参拝時間を含めて半日から一日あれば巡拝できます。この三社巡りは単なる寺社巡りではなく、武甕槌大神・経津主大神・岐神という国譲り神話ゆかりの神々を順に訪ねる、神話をなぞる巡礼でもあります。順番の意味から移動手段、三社守まで、順に見ていきましょう。
東国三社とは。国譲り神話ゆかりの三社
東国三社とは、鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)・息栖神社(茨城県神栖市)・香取神宮(千葉県香取市)の三社で、国譲り神話に連なる神々をお祀りしています。
東国三社は、利根川下流域に鎮まる鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)・息栖神社(茨城県神栖市)・香取神宮(千葉県香取市)の三社です。江戸時代には「お伊勢参りのみそぎ参り」として、伊勢参宮のあとにこの三社を巡る習わしが関東で盛んだったと伝えられています。
三社の御祭神は、国譲り神話に連なる神々です。鹿島神宮の武甕槌大神は、天照大御神の命を受けて出雲へ降り、大国主命に国譲りを迫った武神。香取神宮の経津主大神は『日本書紀』でその平定を担ったと伝わる神で、記紀で伝えの異なる点は「一説には」と言い添えたいところです。そして息栖神社の岐神(くなどのかみ)は、社伝で武甕槌大神らの東国平定を先導したと伝わる、みちひらきの神です。
つまり東国三社巡りは、国譲りという大事業を成し遂げた主役と先導役を順に訪ねる旅です。この筋書きを知ってから巡ると、三社がひとつの物語で結ばれていることが実感できます。
『古事記』の国譲りの場面を、少しだけ辿っておきましょう。天照大御神は葦原中国を治めるべく高天原から使者を送りますが、最初の使者も次の使者も大国主命の側に留まり、復命しませんでした。三度目に遣わされたのが建御雷神、すなわち武甕槌大神です。出雲の伊耶佐の小浜(稲佐の浜)に降り立ち、剣を波の上に逆さに立て、その切先にあぐらをかいて国譲りを迫ったと語られる場面は、この神話の白眉といえます。抵抗した大国主命の御子・建御名方神との力比べを制し、国譲りはついに成し遂げられました。
武甕槌大神は、奈良の春日大社に勧請された神としても知られます。鹿島から白い鹿に乗って御蓋山へ遷ったと伝えられ、奈良の鹿が神鹿として大切にされてきた由来のひとつに数えられています。鹿島の「鹿」の字が示すとおり、鹿はこの神の使いとされており、鹿島神宮の境内にも鹿園があります。
定番の順番は「鹿島→息栖→香取」
巡拝の順番に厳密な決まりはありませんが、広く親しまれているのは鹿島神宮から始める順路です。鹿島神宮は「すべての始まりの地」とも称され、旅立ちを意味する「鹿島立ち」という言葉の由来になった社。人生の門出の神様から巡り始めるのが縁起が良い、と語られてきました。
鹿島神宮で旅の始まりをご報告し、次に、平定の道を先導した岐神の息栖神社でみちひらきを願い、最後に香取神宮で締めくくる。神話の役回りに沿ったこの順路が、地理的にも無理のない一筆書きになっています。
逆回りや香取起点でも差し支えないとされています。大切なのは順番の正しさよりも、三社それぞれで丁寧に手を合わせることです。
江戸時代の人々は、この三社を利根川の舟で巡りました。利根川べりの河岸から出る乗合の茶船で香取・鹿島・息栖を参る「三社詣」は江戸庶民に親しまれた行楽だったと伝えられ、川面から一の鳥居を仰いで社に上がるのが本来の道行きでした。今は車の巡礼が主流ですが、三社がいずれも川や水と深く結びついた社であることは、巡りながらぜひ思い出したい背景です。
車での回り方と所要時間
三社巡りは車がもっとも動きやすい手段です。移動時間の目安は、鹿島神宮から息栖神社まで約15分、息栖神社から香取神宮まで約30分。各社の参拝と境内散策に1時間前後を見込むと、全体で5時間ほど、ゆっくり巡っても一日あれば十分です。高速道路は東関東自動車道の潮来インターや佐原香取インターが便利で、三社とも駐車場が整っています。
鹿島神宮では、楼門の先に広がる巨杉の奥参道と、地震を起こす大鯰の頭を押さえると伝わる要石、湧水の御手洗池までぜひ足を延ばしてください。息栖神社では利根川べりの一の鳥居と、日本三霊泉の一つに数えられると語られる忍潮井が見どころです。
香取神宮は、朱塗りの楼門と黒漆の本殿が森に映える、関東屈指の風格を持つお宮です。こちらにも地中の大鯰を押さえると伝わる要石があり、鹿島の要石と対をなすと語られています。二つの要石を見比べるのも、三社巡りならではの楽しみです。
昼食や休憩は、香取神宮の門前や、少し足を延ばした佐原の町がおすすめです。佐原には小江戸と呼ばれた水郷の商家町の町並みが残り、参拝と町歩きを組み合わせると、三社巡りは一日の充実した小旅行になります。
時間配分のこつは、巡り始めを朝早くに置くことです。三社とも朝のうちは参拝者が少なく、杜の空気が澄んでいます。特に鹿島神宮の奥参道は朝の光が美しく、早出には渋滞を避ける以上の値打ちがあります。昼をまたぐ行程なら、参拝を先に済ませ、食事と土産をあとにまとめると動きが軽くなります。
公共交通で巡る場合
公共交通の場合は、東京駅から鹿島神宮行きの高速バスを利用するのが定番です。所要は2時間ほどで、鹿島神宮の門前まで乗り入れます。鉄道ならJR鹿島線の鹿島神宮駅から徒歩約10分です。
難所は息栖神社で、最寄り駅からの路線バスが乏しいため、鹿島神宮駅や潮来駅からタクシーを利用するのが現実的です(約15分)。香取神宮はJR佐原駅からタクシーで10分ほど。本数の少ない区間が多いので、帰りの便まで先に調べておくと安心です。
公共交通で三社を一日で巡るのはやや駆け足になります。潮来や佐原に一泊し、水郷の町歩きと組み合わせて二日に分ける旅程も、落ち着いて巡れるのでおすすめです。
いずれの手段でも、当日に歩く距離は意外と長くなります。鹿島神宮は奥参道の往復だけでも相応の道のりがありますから、歩きやすい靴と飲み物を忘れずに。御朱印を受ける場合は、授与時間が社ごとに異なりますので、夕方に近づく行程では早めの到着を心がけてください。
武神をまつる社。武道と鹿島・香取
鹿島神宮と香取神宮は、古くから武の神をまつる社として、東国の武人たちの崇敬を集めてきました。奈良・平安の頃には、東北へ下る人々が道中の無事をこの二社に祈ったと伝えられ、旅立ちを意味する「鹿島立ち」の言葉も、こうした信仰の中で育ったとされています。
中世から近世にかけては、剣術との縁も深まりました。香取神宮の地には天真正伝香取神道流の伝統が伝わり、鹿島の地は剣聖と称された塚原卜伝を生んだ剣の里として語られます。今も両宮では武道の奉納が行われ、各地の道場に「鹿島大明神」「香取大明神」の掛軸を掲げる習わしが残ると伝えられます。
勝負事や仕事の節目に東国三社を訪ねる人が多いのは、この武神信仰の系譜によるものです。もっとも、武の神への祈りは誰かを打ち負かすためのものではなく、自分の迷いや怠けに打ち勝つための祈りと捉えるのが、由緒にかなった向き合い方だと思います。
息栖神社と岐神。三社を結ぶ物語の要
三社の中で息栖神社はいちばん小さく、つい素通りされがちですが、巡礼の筋書きの上では要の位置にあります。岐神は、道の分かれ目に立って悪しきものを防ぎ、行く手を開くと伝えられてきた神です。国譲りののち武甕槌大神らの東国への歩みを先導したと社伝に語られ、みちひらき・交通守護の神として信仰されてきました。
利根川に面して立つ一の鳥居の両脇には、忍潮井と呼ばれる二つの井戸があり、水中に男瓶・女瓶と呼ばれる瓶が沈むと伝えられます。海水に囲まれた水郷の地で真水が湧き続けたことが古くから尊ばれ、日本三霊泉の一つに数えられると語られてきました。舟運の時代、川に向かって開くこの鳥居こそが、三社詣の玄関口だったのです。
静かな境内で岐神に手を合わせると、二つの大きな神宮の間で旅人の歩みを支え続けてきた、この社の役回りが見えてきます。三社巡りの途中、息栖でいちばん深く息をつけたという参拝者が多いのも、うなずける話です。
巡り終えたら、三社の御神紋や由緒書きを見比べてみてください。同じ国譲りの物語につながる三社でも、社殿の造りも杜の気配もまるで違います。その違いをひとつずつ味わうことこそ、三社を「巡る」ことのいちばんの意味だといえます。
よくある質問
Q. 東国三社守とは何ですか。A. 三社を巡拝した記念に受けられるお守りです。最初の社で本体を受け、残る二社でそれぞれの御神紋のシールを受けて完成させる形式で親しまれています。授与の形は変わることがあるため、詳細は各社でご確認ください。
Q. 一日で回りきれなかったら、ご利益は薄れますか。A. そのような伝えはありません。三社巡りを一度で終える決まりはなく、日を分けて巡っても差し支えないとされています。むしろ一社ずつ丁寧に参るほうが、それぞれの社の空気を深く味わえます。
Q. どの季節に巡るのがよいですか。A. 通年参拝できますが、奥参道の新緑が美しい初夏や、空気の澄む晩秋から冬は歩いていて気持ちの良い季節です。夏は日中の暑さを避け、朝のうちに鹿島の奥参道を歩く旅程をおすすめします。冬は日没が早いため、午後遅くの出発は避けたほうが安心です。
Q. 三社を結ぶと三角形になる、と聞きました。A. 地図上で三社を結ぶと三角形をなすことから、その一帯を特別な地とする紹介がよく見られます。楽しい見立てですが、三社の由緒の本筋は国譲り神話と利根川水運の歴史にあります。線の形の不思議さよりも、三社が一つの物語と一本の川で結ばれてきたことを味わうのがおすすめです。


